第58話 自由への疾走-17

「やあ、元気かい?」
 挨拶をして家の中に入ってきたマテューは、普段はさほど身なりに気を遣わない方であったが、この日はなぜかきちんとした服を着ていた。
「やあ、マテュー、相変わらずさ。」
「そ、その…今日はちょっと大事な話があるんだ。」
「なんだい? 今日はなんだかいい服を着てるね。そんな服を着たらずいぶん男前に見えるじゃないか。」
「そ、そうかい?」
 マテューはその言葉だけでもう顔を真っ赤にしていた。
「で、大事な話って何だい?」
「うん。まあ、こうしてガブの家を建て直すことができたんでね…。」
「うん、うん、あんたにはとっても感謝してるよ。どんなお礼をしたらいいのかって思ってるんだけど。」
「いやお礼なんかいらないって言ってるだろ。前にも言ったことだけど、これを手始めにして、今度は他の家の修理もやり始めたのさ。」
「頑張ってるじゃないか。」
「で、その中に鍛冶屋だった家があったんだけど、そこの亭主が死んじまったんで、おれに道具の一式をもらってくれないかって言われたんだ。」
「へえ。」
「やり方を教わってみたら、これがなかなか性に合っていて、しかも実入りがよさそうなんだ。」
「あんたは手先が器用だからね。」
「それで、鍛冶屋も手がけようと思ってるんだ。」
「なるほど、わかったよ。あたしにあんたの新しい仕事のお得意様になってくれって話なんだね。いいよ。鋤がもう古くてね。そろそろ新しいのがほしいって思ってたところなんだ。」
「い、いや…、その、そういうことじゃなくて…。」
「ん?」
「やっぱり女は甲斐性のある男を求めるもんだろ。」
「そりゃあ、飲んだくれの怠け者よりは、働き者の方がいいに決まってるけど…? あ、わかった! あんたにもついに好きな人ができたんだね。で、甲斐性のあるところを見せて結婚を申し込もうってわけかい?」
「そ、そう、その通りなんだ。」
「で、お相手はだれなんだい。あたしの知っている人かい。」
 マテューは黙ってうなずいた。
「へえ~、じゃあお祝いをしなくちゃね。」
「いや、まだ…、その…、おれの気持ちを打ち明けてなくて…。」
「なんだ。意気地がないんだね。こういうことは思いきって言ってみるもんだよ。駄目なら駄目でもともとじゃないか。」
 マテューは深呼吸をした。一度では気が済まなかったらしく、二度三度大きく息を吸ったり吐いたりしていたが、ついに思い切って言葉を発した。
「ガブリエル、好きだ。」
「えっ。」
「ずっと前から好きだったんだ。あんたがこの村にやってきた時から。でも、あんたは亭主持ちだった。死んでもずっと思い続けているのは知ってる。あいつは本当にいい男だった。だから、おれは自分の気持ちをずっと黙っておこうと思ってた。でも、この戦乱で多くの人々が死んでいった。おれだって、同じ目に遭ったかもしれない。でも、そこを生きのびたからには、おれだって新しい生き方を求めてもいいんじゃないかって思うようになったんだ。」
 普段は寡黙なマテューがひどく饒舌に語り出した。長年溜め込んでいた彼の思いは堰を切ったように彼の口からあふれ出て、止まるところを知らなかった。ガブリエルはこの告白に呆然とするばかりであった。
「ガブリエル、おれと結婚してくれ!」

この記事へのコメント

2011年12月17日 11:28
ついに! 鈍感なガブリエルも呆然。どう答えるのかガブリエル。続きが怖くて見れない。
2011年12月18日 10:03
ブラックホークさん、控えめな男マテューがついに直球勝負に出ました。はたして、その結果は?

この記事へのトラックバック